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ゆっくりと目を閉じ、舌で水の感触を味わうと薄く目を開く。
その瞬間、ぷわり…と涙が浮き、零れ落ちていく。
「……あなたは、ずっと、ここ、に?」
「僕はずっと、ここに」
「行か、ない…?」
「行けない」
「な、ぜ?」
「僕には翼がないから」
そう言うとほんの少しだけ眉を下げ、悲しそうな顔をした。
「さぁ、早くお行き…」
ソ…と背中を押すと、チラリとこちらを振り返りつつ、ぎこちなく翼を広げた。
きしきしと、錆付いた音は聞こえた。
僕は床に溜まっている水を掬うと、ばしゃりとかけた。
突然の出来事に肩をびくりと震わせたが、意図は理解出来ていたらしく、何も言わなかった。
ぽたぽたと伝い落ちる雫の色は赤銅色が混じっている。
鉄錆をいい感じに落としてくれたのだ。
「君の神様によろしくね」
「………」
こくん、と少し顎を引くと彼女はぎこちないが、しっかりとした動きで翼を羽ばたかせた。
足を地面から少し浮かせたところで、また此方を振り返った。
細くて、血管の透けそうな綺麗な手を伸ばすと、僕の頬に触れ、上を向かせた。
…ぱさり、とフードが頭から外れた。
「………あ、り、がと、う」
「…………いいえ?どういたしまして」
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