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――その時。
突然、虚無の空間から、白く
ぼんやり光るモノがすうっと姿を現した。
それは、白くて小さい、幼い手のひら。
差し伸べられたその手は、わたしの右腕をぎゅっと掴んだ。そして、一生懸命にわたしの手を引き上げようとする。
それでも、わたしの体は落下し続ける。そんな小さな力では、止められない。
あまりに華奢な手のひらは、そのまま壊れてしまいそうで。
見ていられなくなったわたしは、両手でそっとその手を包み、絡む指を外した。
ありがとう。……でも、だめだよ。
わたしの手から離れた小さな手。
しばらく何かを求めるようにゆらゆらと揺らいだ後、
すうっと、上空の暗闇の飲み込まれていった。
そしてまた、落ちる。
落ち続ける。
どこまでも、果てしなく。
誰の手も届かない、奈落の底へと。
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