転校生

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―― 「えー…であるから、1368年に朱元璋は明を建国し…」 コツコツと黒板に先生が白いチョークで 歴史を書き出していく。 俺は真面目にそれを写して、 珍しく説明を熱心に聞いていた。 …こうしている間は、他の事は考えなくて済む。 そのとき、 ツンツンと隣の椎葉が肘を付いてきた。 「(なんだよ。)」 小声で話しかけると、 シーッと口に人差し指を当てて、折りたたんだメモを指差した。 (開けろ、ってことか?) なんだろう、と思って開いてみた。 「ッぶはっ!!」 「くっくっくっ…」 描かれていたのは世界史の教師の絵。 「何コレ!?すっげぇ似てる!!」 「だっろ~?  俺、この40分間、タヌキの観察に費やしてたんだからよ!」 世界史の教師は、 丸々太って禿げていて、狸みたいな見た目だった。 影で「タヌキ」と呼ばれているが、 転校初日の奴も、やっぱりそう思うのか。 「ぅおっほん!」 ワザとらしい咳払いが頭上で聞こえた。 やばっ、と思って顔を上げると、 タヌキが笑顔で教科書を持って立っていた。 「キミたち。転校初日で、随分仲良くなったようだねぇ…」 「「は、はぁ…」」 俺と椎葉が声をそろえて返事をする。 「私にも馴染んでくれて嬉しい、よ!」 「あっ!」 タヌキが俺の手から似顔絵を取り上げた。 .
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