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「――…もう、泣いてもいーよ。」
頭の上で椎葉が呟く。
「教室、誰も居なくなったし、あいつらも居ない。
今なら存分に泣けるけど?」
「……気付いて、たのか?」
零れる前に拭えたと思ったのに。
暗にそう言うと、
椎葉が小さく「いや、」と言った。
「なんか、泣きたそうな顔してると思っただけだ」
ぽん、と俺の頭に手を置き、
よしよしと子供をあやすように撫でてきた。
「今日初めて会った相手じゃ泣きにくいだろうけど、だからこそ遠慮なく泣けるだろ?」
「そ、…かもね…」
「な?ほら、泣け泣け」
俺と話しながら、椎葉はずっと頭を撫で続けてくれる。
それは優しい手つきで、……
「……ぅぅ…ッ…っく…」
俺は、いつの間にか泣き始めていた。
椎葉のシャツが、涙で染まっていく。
「――………」
椎葉は、何も言わなかった。
慰めの言葉も、疑問の言葉も…何も。
ただひたすら、俺の頭を撫で続けるだけだった。
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