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「椎葉、ちりとり取って」
「あ、俺やるからいーよ。
ちっちゃん、代わりに雑巾干してくんね?」
「分かったー」
掃除は順調に進み、
話してみると案外椎葉は面白い奴だと分かった。
「俺このままゴミ捨ててくるから、帰る支度しといて」
「悪ぃ、椎葉。ありがと」
更に意外と気遣い屋だ。
顔も悪くないし、多分モテるんだろうなと思う。
教室の窓から、合唱部の歌声が聞こえる。
それに釣られるようにフラフラと窓際に立った。
静まり返った教室に、一人。
嫌でもあの日の事を思い出してしまう。
『…っ…朝陽…ッ!』
――…嫌でも、瞬の声を思い出してしまう。
そのとき、
合唱部の歌声が止み、別の曲に変わった。
『君のことが好きだった
その視線が俺に向いてなくたって構わない、と思うぐらいに
自分を誤魔化すのは辛くて、
何度君を憎めたらいいと願ったのだろうか
俺が泣いていることを、君は知らない
俺が仮面をつけて笑うことを、君は知らない
気付いて欲しい、でも気付かないでくれ
この気持ちを捨てることだけが、今の俺に出来ること』
柔らかいハーモ―ニーと優しい伴奏が、俺の心の隙間に侵入する。
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