変態の愉快な日常

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校門前の掲示板にはその日の購買に売っているパンがリストアップされている。 「ふむ、今日は焼きそばパンがいいかな」 「いやラスクだろ」 独り言のつもりで言ったはずの言葉に返答があったので、少し驚いた。 「あぁ君かイマイチ」 「あのよぉ碧。いい加減その呼び方やめてくれないか?」 そういいながら僕の肩に慣れ慣れしく手を回したのは、いや回してくるのは父さん母さん以外にはこの男、今井千景(いまいちかげ)ぐらいのものだろう。 中学二年とは思えないほど発達したその巨体は、ゆうに百八十を超え、肩幅に至っては僕の二倍はあるかもしれない。 野球部期待のエースであるイマイチは勿論坊主頭であり、鋭い目つきはまるで刃物のようだ。 決して比喩表現ではなく、僕自身最初にイマイチに会ったとき(中学入学当時)目があっただけで泣きそうになったのを覚えている。 だが、イマイチは見た目にそぐわず温厚で気さくな人物だった。 それを確認したのは最近の事だが、その時僕の中の『巨人は基本的に怖い』という思い込みがひっくり返されたようで嬉しかった。
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