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「……ああ言ってるけど?」
俺が言うと、咲夜は苦虫を喉に詰まらせたように顔を曇らせ、
「わかってるわ。でも、これがあなたの、延いては私の仕事に繋がるの。開けるから、すぐに入って」
「うーん……嫌がってるみたいだし、あまり気乗りしないけど。とりあえずやってみる。……ああ、ところで、ひとつ聞いていいか」
「なに?」
幾何学模様の上を、指先で器用になぞりながら、咲夜が応える。扉が、ズズズ……と重厚な音を立てて、開いていく。
「新しい遊び相手ってことは、俺の他にも誰かいたのか。そいつらはどうしたんだ。辞めたのか?」
「……いいえ」
扉に、人一人が滑り込める程度の隙間が生まれた瞬間、咲夜が俺の背中を押し、その隙間へと俺を放り込んだ。
「うわっ!? ちょ、なにすん……っ」
「みんな、フラン様に殺されたわ」
――――……ガゴン。
退路が閉ざされた。
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