起床

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夢から醒める時はいつもそうだが、まるで他人の身体に無理矢理意識を押し込んでいるかのような感覚に陥る。 私は無心で朦朧とした気儘な夢の世界から、あまりにも現実的過ぎる現実世界に思考を紡ぎ合わせる。 紡ぎ合わせている間、他人からみると一体私はどんな表情をし、一体どんな雰囲気なのだろう。 妻の起き抜けの雰囲気はいつもとても穏やかだ。まるで今まで真っ白な砂浜がある南の島で、性格のいいゴールデンリトリバーと一緒に、ゆっくりと朝日を眺めてでもきたみたいに平和なのだ。子供のころから低血圧ぎみな私はそれがとても羨ましく、そんな起床ができる妻が好きだった。夢と現実を紡ぎ合わせる作業は私にとって一日最初の厄介な作業で、5年前に結婚してからはそんな妻の寝起きの雰囲気は、困難な作業中に少しでもリラックスを求めてかける美しい音楽のように、私を癒してくれる。 妻は例外なくいつもそんな平和な雰囲気の起床で、私も例外なくいつも低血圧ぎみな雰囲気を纏って目覚める。少なくともこの5年はずっと妻はそうだった。4歳と1歳の私たちの息子が、眠りに付くまでどんなに手間がかかっても(「もう子育てなんて嫌!早く大きくなってくれればいいのに!」とよく愚痴をこぼしている。)、朝目覚める時は南の島から戻ってきた雰囲気なのだ。
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