薔薇色のKiss

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“そいつは君の翅だけ  残してすべて平らげて  しまうんだ”  確かに、薔薇の翅だけがソファの上に横たわっています。 “君は飛ぶんだ”  飛べるでしょうか? “飛べるよ”  信じて羽ばたけば、薔薇の翅は浮き上がりました。その羽ばたき一つに、薔薇の花弁が数十枚、舞い落ちます。 “花びらが尽きたら、  死んでしまうよ”  儚いものですね。 “君はこの有限の中、  どこへ飛ぶ?”  できたら、あなたの元へ。 “それはいい”  でしょう? “だけど届かないよ”  そうかしら? “そうとも。  そうに決まっている”  彼の声が少年のものではないのなら、きっと私の未来の恋人の声なのでしょう。未来の恋人は、待ちくたびれて、少し疑心暗鬼になっているようです。これ以上、待たせる訳にはいきません。  レースのカーテンをくぐり抜けた私は窓から外へ出て、薔薇を撒き散らしながら声のする方角へ飛んでゆきます。お屋敷の庭にワインより深い花びらの赤が、処女の流す血のように動線上に吹き溜まりました。  あの乳白色の雲は  私の白い肌  あのラピスブルーの空は  私の青い瞳  紫と橙の雲が千切れれば  世界はマーブル模様に染まり  薔薇色の夕陽のドレスは赤く  私の髪と同じ色の夜はもうす  ぐ――  私を追いかけてガラスの蜘蛛は窓から落下し、粉々に砕けて動かなくなりました。  声を追いかけた私は星を一周し、薔薇も尽きて地面に墜ちました。  ――そうして再び出逢ったガラスの破片と薔薇の花びらは美しく寄り添い、産まれ落ちた子どもの眼にもそれは“アイ”と知れるのです。  
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