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「お継母さんを捜してくるわ」
「つき合うよ」
「いいわよ。危険だから」
また、抱きとめられた。
額に軽いキスを落とされる。
私は、和ちゃんの心も揺れているのだと知った。
こうして寄り添っていると気が休まる。
「なな子と奈月がいなくなるよりはいい」
照れるようなことを真顔で言う。
そして唇の端を持ち上げ、和ちゃんは力強く頷いた。
「歴史なんか、変えてやろう」
腹を決めたらしい。
和ちゃんが言うと、本当に歴史を変えられるかもしれない、という気になるから不思議だ。
私自身、「歴史を変えてやる」などと言いながら、実のところ、自信のほどはいまいちだった。
過去で何をやっても、因果律の法則により歴史は変わらない。
それは、プロジェクトの構成員にとって、常識同然に言われていたことだ。
常識に立ち向かう躊躇を、私の和ちゃんはいとも簡単に吹き飛ばしてくれる。
嬉しかった。
心強かった。
和ちゃんの腕の中で、心が安堵に満たされていく。
「奈月を連れて帰ろう」
「うん、ありがと」
「今度の日曜日、五十年前くらい前の山に行こうか」
「やった」
どんな星が見られるのだろう。
私は一旦目を閉じて、複雑に広がる頭上の新緑を見上げた。
多層に重なる葉の網目をかいくぐって、日光がきらきら輝く。
一つの宇宙さながらだった。
「気合い入れてお弁当作るわ。リクエストある?」
二十五年前、風の爽やかな午後。
継母の家に生える樫の大木の下で、和ちゃんと私は、堅い指切りげんまんをした。
--了--
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