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 次の飛行はうまくいったようだ。  見慣れた継母の和風住宅、家に陰を落とす樫の大木が目前にある。  ちょうど緑の茂る時期で、葉擦れの音が気持ちいい。  継母の家は少し古くて外壁がくすんでいる。  この住宅街唯一の純和風住宅だ。  瓦屋根もこの家しか使っていない。  周りはすべて洋風の新興住宅だから、堂々たる重厚な和のたたずまいは街に映える。  子供の頃、珍しい和風の家に育ったことをよく誇りに思ったものだった。 「なな子、今度は奈月の座標にはじかれなかったようだな」 「ええ」  胸を撫で下ろし、私と和ちゃんは慌てて樫と庭木の緑陰に隠れた。  家の引き戸が、ガラガラン、と引っ掛かる音を立てたからだ。  戸の立てつけが悪いのは、この頃も同じだったらしい。  開くと、奇妙な音も連れてくる。  中から出てきたのは、白髪一筋ない、気品漂う継母の姿だった。  遠目に見ても、若い。  赤ちゃんをベビーカーに乗せながら「ななちゃん、いい天気でちゅねー」と楽しそうに語りかけている。  今から散歩に出掛けるらしい。 「奈月……」  私は、若い継母に向かって一歩踏み出した。  すると。 「なな子、隠れるんだ」  和ちゃんに素早く肩を抱き寄せられ、大木の陰に無理矢理引き戻されたのだった。 「何するのよ。奈月を返してもらう、いいチャンスだったのに」  奈月に届きそうで届かない。  もどかしくて暴発しそうな感情を抑制しながら、私は小声で愚痴った。 「聞けよ」  和ちゃんは、私の目を直視してくる。  思わず心臓が跳ね上がった。 「あの赤ちゃんはお前かもしれない」 「私が奈月の顔を間違えるはずないじゃない」 「ななちゃん、と呼ばれていただろう?」  涼しい風が、私たちの間をよぎった。  梢の葉がさらさら風に流れる。 「……それは、奈月の名前が分からないからよ。だから、服に縫いつけたNのイニシャルから、ななちゃんって、呼んでいるんだわ。ななちゃんって…」  私は途切れ途切れに言った。  だけど、そこではっと気づいたのだった。  このシチュエーションは、私が継母に拾われたときと同じ……。
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