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「制御装置の設定が正しければ、お継母さんがお前を拾う瞬間、奈月はこの家の前に飛行してきたことになる」
「じゃあ、赤ちゃんは奈月と私の二人いるはずね。お継母さんは、一人だけひいきするような人じゃないもの」
でも、若い継母がたった今ベビーカーに乗せた赤ちゃんは、一人だけだった。
第一、私の他に赤ちゃんを拾ったという話は聞いたことがない。
私がひがむと思って、継母は未だに口を閉ざしているとでもいうのだろうか。
「もう一人、家の中にいるんじゃないのか?」
「まさか」と私の口は反論した。
ハイハイで活発に動き回る赤ちゃんを一人家に残すなんて、万が一を考えると危険すぎる。
でも寝かしつければ話は別だ。
継母は、私と奈月を交互に散歩させるつもりなのかもしれない。
「まさかとは思うけどさ」
唐突に、和ちゃんは「今から恐いことを言うぞ」といった雰囲気を醸した。
「俺たちと奈月の到着座標がかちあったとき、あいつもはじかれたとか」
和ちゃんの発音がゆっくりになる。
「……」
あり得そうな話に気が遠くなりかける。
もしそんなことになったら、その法則性を見い出さない限り、奈月と再会できる可能性はゼロに等しいではないか。
時間と空間は、限りなく広がっているのだ。
時間軸を行き来しつつ、地球、陸海のどこかに落ちた奈月をしらみつぶしに探すなんて、到底不可能だ。
更に、場合によっては、奈月が宇宙に飛ばされたことも考えられる。
これは決して大袈裟な推測ではない。
現にそうやって消えた実験仲間は数多くいるのだ。
手をこまねいているうちに通信は途絶え、彼らが現代に戻ってくることはなかった……。
和ちゃんと私は顔を見合わせた。
和ちゃんの顔が青くなっている。
競争して勝っても自慢にはならないけど、私の顔も、和ちゃん以上に青く豹変していることだろう。
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