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「確かめるんだ」
「確かめよう」
言葉が重なった。
装置に発信機をつけておけばよかったと、今更後悔してももう遅い。
とにかく今は、奈月がこの時代にいることを願い、確認するのが先だった。
もし奈月がこの時代にいなかったら……。
暗く暗く考え、いざというとき、心の衝撃を和らげようと準備を始める私の心。
臆病な心を叱咤して、私は頭を左右に振った。
暗い未来像を消滅させるために。
「お継母さんが連れていったのは、なな子だ。奈月が家の中にいるはず」
「お継母さんが連れていったのは奈月よ」
和ちゃんの間違いを指摘して玄関前を見る。
もう、辺りに継母の姿は見えなかった。
私たちが青くなっている間に出ていってしまったようだ。
引き戸の鍵はもちろん閉まっている。
そこで私は、玄関横の赤いポストに手を突っ込んだ。
すると、やっぱりあった。
継母はいつもスペアキーをポストの中に入れているのだ。
今まで何度お世話になったかしれない。
この家は継母が一人で暮らしていたから、家族に見つかるなどといった心配はない。
私自身が育った家だ。
躊躇ひとつなく、どかどか不法侵入する我々夫婦。
これも娘に対する愛の力故だ。
奈月よ、おまえはこんなにも愛されているんだぞ。
戻ってこい!
心中で呼ぶ。
当然返事があるわけもなく、家の中は静寂そのものだった。
「泣き声ひとつしないし、昼寝でもしているのかしら」
ところが、一階の居間にも座敷にも、二階にある幾つかの部屋にも、一向に赤ちゃんらしき姿は見当たらないのだった。
ベビーベッドは居間に一つだけあった。
でも、そこには誰も寝ていない。
物音すらない。
懐かしい実家は、人の気配もなくガランとしていた。
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