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樫独特の滑らかな肌触りを手に感じたまま、私は唇を噛んで一切の動作を中断した。
和ちゃんが隣で何か言っている。
けど、私の頭は、その言葉に耳を傾けるだけの余裕を持たなかった。
「おい、なな子ってば」
「ちょっと話しかけないで」
うるさい和ちゃんをぴしっと黙らせる。
言い方がきつかったかなと反省する。でもリアクションに出す心のゆとりはなかった。
「笑ったかと思うと深刻な顔して、分からない奴だな」
今、私の心は完全に異次元を旅している。
思案は、奈月が継母に拾われ、なな子(私)として成長するのではないか、というとんでもない結論にぶつかっていた。
最初は、奈月が継母に拾われたため、なな子は別の人に拾われたという可能性を考えた。
この説を認めると、歴史が変わってしまったことになる。
歴史に因果律がはたらいていることは、既に実験でも証明されている。
例えば未来の人が過去に行って、書物に名が載るとする。
だからといって、そこで途端に歴史が変わるわけではない。
その人が生まれる前から、既に「成されたこと」として書物には名が残っているのである。
同じように、私がこの家で育ったのは曲げられない事実だった。
天地がひっくり返ろうが太陽が爆発しようが、継母の話に偽りがない限り、私は継母に拾われ育てられたのである。
つまり、なな子が別の人に拾われたという説は正しくない。
「ねえ和ちゃん」
「ん?」
私は更に恐ろしい結末に気づき、戦慄した。
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