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 継母に真実を打ち明けられたとき、私は中学生だった。  そのときのショックとぎこちなさといったら、酷いものだった。  おかげで私は、元気はつらつな奈月が迷子になって、私と同じ境遇になりはしないかと、いつも冷や冷やしている。  そこでだ。  迷子になったときの手掛かりとなるよう、私は奈月の服にもイニシャルのNを縫いつけている。 「和樹さんとはうまくやってるの?」 「うふふふ!」  継母に尋ねられて、私の顔の筋肉は途端に緩んだ。  和ちゃんと結婚して二年。  私達の絆は更に強く深く結ばれている。  私は主婦業の傍ら、和ちゃんは仕事の傍ら、二人力を合わせて共同開発してきたものがあったからかもしれない。  実は、以前和ちゃんと勤めていた技術開発所の極秘プロジェクトが、資金援助付きで私達の手に委ねられている。 「うまくやっているか、なんて、聞くまでもなさそうね」  もちろんだ。  そして私は継母に「ねぇ、聞いてよ」と前置きし、重大発表をした。 「実は昨日の夜、小型の時空間移転制御装置が完成したのよぉ。チップを腕時計にはめて、微妙な時間と空間を設定できるようにしたの。まだまだ実験しないといけないけど、実用化の日が一歩近づいたわ」  私は白熱し、奈月にガッツポーズなんぞさせてしまう。  この研究は一般的に極秘だ。  実験に失敗すれば行方不明になる確率が高いという意味合いから、親や家族の一人には明かしてもいいことになっている。 「わたしの娘夫婦は天才だわ。凄いじゃないの! 前の装置は大きくて大変って言ってたものね」  TVフォンに映る継母は、誇らしげに笑ってから心配そうに眉根を寄せた。 「気をつけるのよ、なな子」 「ありがと。大丈夫よ。皆の夢を背負っているんだから、頑張らないとね」  継母に安心してもらえるよう、私はあれこれとしゃべり続けた。興奮気味になるのはご愛嬌だ。  甲斐あって、継母の表情は晴れていく。  なんといっても、通算三十二年越しの大プロジェクトである。  継母には、喜びの方を伝えたくて伝えたくてたまらなかった。 *********************************************
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