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「起きろ、なな子。奈月がいない」
「おあえり~」
和ちゃんの切羽詰まった声に、私はぼんやり目を覚ました。
連日の寝不足がたたって、じゅうたんの上で昼寝してしまったらしい。
奈月も隣で寝ているはずなのに……あれ、いない。
「例の装置も一個足りないんだ。ほら、チップを腕時計にはめたやつ。床に撒き散らしてあったから、奈月が触ったんじゃないかと思って」
「うそぉ! まさか、チップのスイッチ入れちゃったの? あの子」
冷水を浴びた私の頭は、特急列車で現実に帰ってくる。
「うそぉ、じゃない。奈月はうろつきまわって何でも触る時期だから、しっかり見てろって言っただろ」
「なによ! 和ちゃんじゃないの。奈月の手が届くところにチップ置いたのって」
母親として自分が失格なのは分かった。
子供を放置した責任も感じている。
だけど、こう頭ごなしに雷を落とされては、私としても雷を打ち返すしかないではないか。
険悪の一歩手前で、和ちゃんは「怒って悪かったから静かにしろ」と、いきなり態度を豹変させた。
自分の愚行を反省する気になったというよりは、私と言い争ったところで何も進まないから引いてやるさ、という感じの呆れた物言いだった。
「今は奈月を捜すのが先だ。チップのスイッチが入ったとは限らない」
その言葉に逆らえるような神経は、生憎持ち合わせていない。
「仕事帰りなのにごめんね、和ちゃん」
私はぽろりと謝罪した。
すると和ちゃんは、私の肩を優しく叩いて励ましてくれる。
かくして、口論は終わった。
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