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和ちゃんも私も、奈月の失踪に相当焦っていたのだろう。
ミスった。
奈月の到着座標とかちあってしまったのだ。
奈月の方が早く出発しているせいだろうか。
私たちの座標がはじかれて、到着位置がずれた。
実験でも、同僚たちがさんざん体験したはずなのに、うっかりしていた。
この「うっかり」が、時に命の危険をも伴う。
どちらかというと、危険でないことの方が少ない。
というわけで、私たちの到着先は夜、高層ビルの屋上だった。
正常値であるなら、空は明るく、かつ地面が足元にあるはずだ。
ところがどっこい、周りが暗い上に、風の強いビルの屋上ときた。
目的の座標でないことは目に明らかだった。
それでも私たちは運がいい方と言えた。
はじかれた先が、海抜数千メートルの空とか数百メートル下の海底、狭い下水管の中、まして地球外だったら……と思うと背筋が寒くなる。
冗談抜きに、地球外である可能性は高いのである。座標の計算を少し間違っても、そこは地球外なのだ。
何故なら、地球は常に自転・公転していて、じっとしてはくれないからだ。
更に、地球は毎年微妙に違う軌道を走っている。
座標の設定は手動だから、大量のデータもコンピュータもなく座標を割り出すのは、面倒この上ない作業となる。
「どうする? 設定変えて、跳ぶ?」
和ちゃんは「それしかないだろ」と言ったけど、月明かりに浮かぶ顔はげんなり沈んでいた。
さしずめ、先に待つ作業は頭が痛い、といったところだろう。
同感だ。
「チップのデータ使っても、計算に何時間かかるかな」
「……奈月への愛が試されるのね」
座標をコンピュータなしで計算するなんて、ちょっと涙ものだった。
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