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到着座標は、奈月の座標より二日遅らせる。
場所も少しずらすことにした。
奈月の座標に干渉しないためだ。
慎重に計算の解答を出さないと、何が起こるか分からない。
屋上に設置された巨大タンクの陰で強風をしのぎながら、私たちは必死で座標を計算した。
ようやく設定が終わると、和ちゃんは「うん」と伸びながら言った。
「なな子。帰ったら、座標の設定を自動化する装置をつくろう。でないと、こいつ(時空間移転制御装置)の実用化は無理だ」
「賛成。あと、トラブルを自動的に避けるようなシステムが必要ね。今のままだと、行方不明者が続出だわ」
給水タンクの陰で、私と和ちゃんは苦笑いした。
実を言うと、時空間移転制御装置そのものは、十年以上前、極秘開発されている。
にも関わらず一向に発表されないのは、座標の計算が困難で、安全性に関しても課題が山積みだからだった。
また、軍事問題や倫理的問題もあり、むしろこっちの方が難題といえた。
結果、装置の小型化・軽量化の研究が進んだにも関わらず、一般人は何も知らないといった状況に陥っている。
「……行こうか」
和ちゃんがチップのスイッチを押そうとしたとき、わたしは待ったをかけた。
空。
月の反対側には点々と輝く星。
せっかくだから、じっくり見ておきたかった。
奈月には早く会いたいけれど、いつここを出発しても、到着する場所と時間に変わりはない。
それに、少し落ち着きたかった。
「星なんて、珍しいよな」
「今の日本じゃ、太陽と月、よくても金星くらいしか見えないもの。今のうちにしっかり見ておきたいの」
図鑑でしか見たことのない星が目の前で……という表現には語弊があるけど、それくらいの迫力で私に迫ってくる。
鮮烈な星の命の輝きは、純粋で綺麗だ。
今では、日本のどこもが都市化していて、夜でも雲がはっきり見えるほどに明るい。
当然、こんな風に星が見える場所は稀だ。
「奈月にも見せてあげたいなぁ」
急に目頭が熱くなって、せっかくの星がぼやけてしまう。
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