『終わったんだ…』

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――10月12日 俺は部活を終えて家に向かっている。 「早く帰んねーとあいつら腹空かしてんだろな…。」 今日は部活が終わるのが遅くいつもならもう夕飯を食べている時間だった。 こんな時くらい姉貴も動いてくれりゃ助かるのに。 俺は姉貴を『世界一怠惰な大学生』だと信じている。 と言っても、健は受験勉強で忙しいし俊に任せるとどうなるか大体想像つくし、咲と雪はまだ小さいし。 結局は俺が動かないといけない。 「ただいまー。」 「おかえりなさい!お兄ちゃん!」 咲と雪が揃って迎えてくる。 2人は双子だから息もぴったり。 「んだよ。材料全然ねーじゃんか。」 「じゃあ、兄ちゃん買ってきなよ!」 「おぅ、たっくんいってらっしゃーい。」 俊と姉貴は無責任過ぎる。 俺を何だと思っている。 「しゃーねーな。じゃあ、買ってくるから待っとけよ。」 俺は家を出て急いでスーパーに向かった。 『ミーンミーンミーン…』 「なんで、こんな夜なのに蝉がにぎやかに鳴いてんだ?」 何か良いことがある気がした。 まあ、恐らくないだろうが。 ――それと同じ頃 琉菜さんは人通りの少ない道を歩いていた。 クラスメイトに借りていたハンカチを返しに行こうとしていたらしい。 「えっと、柚子さんのお宅は…。」 地図を見ながら歩いていた彼女は前を見ていなかった。 その時、強い風が吹いた。 彼女の持っていた地図は交差点の方へ飛んで行った。 「あ、待って…っ。」 彼女は信号を見ていなかった。 「あ、危ないっ!」 彼女がその声に気付いた時にはもう遅かった。 『キィィィィッ!』 車の急ブレーキの音を聞いた俺はその音がする方へ向かった。 「はっ…。」 俺の目の前に見えたのは体中から血を流して倒れている彼女…琉菜さんの姿だった。 「大丈夫ですか!」 駆け寄ってきた人は恐らく車の運転手だ。 「…親父?」 運転手は俺の親父の『苑田 勇』だった。 「卓か!早く、救急車を!」 「うん。」 俺はすぐに救急車を呼んだ。 5分くらいすると救急車が来て彼女を乗せ、付き添いで俺と親父が乗り病院へ急いだ。 ――湊都総合病院 手術室に運ばれた彼女を見て驚いた医者もいただろう。 血まみれになっているとはいえ、医院長の娘の顔くらい分かる。 医師らは手術に専念した。
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