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それから毎日のように鳥たちが小鳥の元を訪れました。
鳥たちが来ては帰る度に小鳥は自分も空を飛びたいと強く思うようになりました。
歌も少しずつ悲しみを帯びるようになりましたが歌声はますます透明に透き通りキラキラと輝きました。
より美しくなった小鳥の歌を聴こうとあちこちから鳥が集まるようになりました。
やがて悲しみは絶望へと変わっていきました。
小鳥は毎日涙を流しながら歌いました。
それしか気持ちを宥める方法を知らなかったのです。
やがて小鳥は血を吐きました。
それでも小鳥は歌い続けました。
その頃から今まで来ていた鳥たちも訪れなくなりました。
誰も聴くもののいない歌は塔の周りをうっすらと影を作りながら覆っていきます。
夜のように暗く透き通った歌声を聴くものは誰もいません。
血を吐きながら歌ったので小鳥は声が出なくなりました。
歌えなくなった小鳥はただ泣き続けました。
ある日いつもは固く閉じた鳥籠の扉が無くなっていました。
鳥籠の下を覗くとボロボロになった扉が落ちています。
小鳥はため息をつきました。
そして掠れて自分でも聞き取れない声で呟きました。
「あぁ、やっと出れる」
その頃には小鳥は夢と現実の区別ができないほどに疲れはてていました。
空は青く澄んで風は優しく草原を駆け巡っています。
久しぶりに見た外はキラキラと輝きとても魅力的に感じました。
小鳥は
「この空を飛びたい」
と心の底から思いました。
そしてフラフラと鳥籠の扉があった場所から塔の小窓に跳び移りました。
目の前をいつか見た鳥たちが飛んでいます。
小鳥は失った翼を広げ青い透き通った空へ飛び出しました。
しかし失った翼は風を掴むことはできませんでした。
小鳥はまっすぐに塔の下の地面に落ちていきました。
赤い小さな血溜まりに褐色の小さな体を横たえました。
褐色の羽は少しずつ赤く染まっていきます。
小鳥はぼんやりとそれを眺めていました。
青く透き通った空を飛ぶ夢を見ながら小鳥は静かに呼吸を止めました。
誰も かつてはあんなに沢山集まっていた鳥たちさえも小鳥の死を知ることはありませんでした。
(完)
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