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とある、とあるどこか遠い世界でのお話。
その世界にポツリとある小さな集落。
その村の住人は皆、毎日怯えて震えながら暮らしていました。
集落の少し離れた場所にある、今は誰も亡き古びた城。
その古城に魔王が住み着いたからです。
村の商人が城の中に入ってゆく大きな黒く醜い化け物の姿を見た、と。
その日から、魔王に村が滅ぼされるのではないかと、怯え始める村人達。
けれども日が暮れ朝が明けようが、数日経っても魔王は何もしてきません。
ですが逆に村人は不安が募るばかり。
嵐の前のような静けさに耐えられなくなった村人は、相談を重ねた末、魔王討伐に乗り出します。
魔王討伐に名乗りを上げる、心優しき村の青年。
彼は村を想い、身を犠牲にする覚悟へ魔王の城へと乗り込みます。
村人は彼を『勇者』と讃え、彼の無事を祈りました。
村を出、辿り着いた魔王の城。
武器を手に、勇者は城の中へと踏み込む。
城の中は不気味な静けさを放ち、立ち入る者を飲み込むような薄暗い、闇。
それでも勇者は怯まず、最上階の玉座の間へと辿り着きました。
動く影。
これが、魔王。
武器を振りかざし、勇者は魔王に斬りかかります。
……………。
ですが、勇者は途中で武器を降ろしてしまいました。
なぜなら、目の前にいたのは黒く醜い化け物などではなく、小さな女の子。
少女は武器を持った勇者を見て、玉座の後ろに隠れ震えていました。
勇者は少女に名前を尋ねます。
少女は『ミーア』と答えます。
少女は勇者に名前を尋ねます。
勇者は『ローラン』と答えます。
勇者は続けて尋ねました。
ミーアがここにいる理由、黒く醜い魔王のこと。
ミーアはまだ少し怯えながら話し出します。
その黒く醜い化け物は確かに自分のことだと。
前に住んでいた場所で近くにあった町の人達に襲われて、傷付きながらここまで逃げて来た、と。
目の前の少女は泣きながら謝ります。
村の皆さんに迷惑をかけるつもりはなかった。
ただ、居場所がなかっただけなんだ、と。
勇者はそれを聞いて武器を鞘に納め、手を差し延べました。
彼女の傷が癒えるまで、この小さな少女を守ろうと勇者は決めたのでした。
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