魔王と勇者

4/7
前へ
/7ページ
次へ
ミーアは、自分には不思議な能力があると、勇者に話しました。 それは、命を司る能力。 ある代償との引き換えに、命を与えることが出来るというもの。 屋上に広がる四季を詰めた花畑。 小さな頃から集め続けた花の種に、命を吹き込んで開花させたのだと、ミーアは語る。 勇者に喜んで欲しくて、と。 勇者は聞いた。 代償について。 ミーアはただそっと、微笑んだ。 何も言わず、ただ静かに。 ひぐらしが奏でる夕暮れの音。 落ちる夕日が花を照らし、場はよりいっそう、神秘を咲き誇る。 だけど少し悲しくて。 世界全てが泣いてるような気がして。 ミーアが、苦しんでるような気がして。 勇者はミーアを連れて、城の中へと戻った。 翌日、勇者は屋上へ行き、とある花を探します。 冬にだけ咲く、碧の涙と呼ばれる花。 淡い瑠璃色の、世界で最も美しい花とされる貴重な花。 ミーアが起きる前に、どうしてもやっておきたいことが勇者にはありました。 あった、と小さく歓喜の声を漏らす勇者。 そこには淡く儚げながらも、凛と咲く涙の花。 一言謝罪の言葉を呟き、碧の涙をそっと摘み取りました。 ミーアには話していませんが、勇者も、不思議な能力を持っています。 それは、時間を司る能力。 ミーアと同じく、ある代償との引き換えに、時間を止めることが出来る能力。 勇者の代償は、視力。 勇者は静かに目を閉じ息を止め、花に能力を送りました。 目を開けると、霞む世界。 視力を少し失った代わりに、碧の涙は萎れることも、枯れることもなく今の美しい状態を保てるようになったのです。 碧の涙の、時間を止めることによって。 霞む視界を目を凝らしながら歩き、ミーアの元へ。 寝ているミーアの髪に、そっと碧の涙を飾りました。 勇者がミーアのために造った、碧の涙の花飾り。 それはとても、とても良く似合っていました。 朽ちた城に咲く四季の花畑、そして朽ちた城に住まう碧い花の女の子。 これ以上綺麗な世界は、どこにもない。 視力を失っても、代わりに手に入れたものは、掛け替えのないものでした。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加