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ミーアは、自分には不思議な能力があると、勇者に話しました。
それは、命を司る能力。
ある代償との引き換えに、命を与えることが出来るというもの。
屋上に広がる四季を詰めた花畑。
小さな頃から集め続けた花の種に、命を吹き込んで開花させたのだと、ミーアは語る。
勇者に喜んで欲しくて、と。
勇者は聞いた。
代償について。
ミーアはただそっと、微笑んだ。
何も言わず、ただ静かに。
ひぐらしが奏でる夕暮れの音。
落ちる夕日が花を照らし、場はよりいっそう、神秘を咲き誇る。
だけど少し悲しくて。
世界全てが泣いてるような気がして。
ミーアが、苦しんでるような気がして。
勇者はミーアを連れて、城の中へと戻った。
翌日、勇者は屋上へ行き、とある花を探します。
冬にだけ咲く、碧の涙と呼ばれる花。
淡い瑠璃色の、世界で最も美しい花とされる貴重な花。
ミーアが起きる前に、どうしてもやっておきたいことが勇者にはありました。
あった、と小さく歓喜の声を漏らす勇者。
そこには淡く儚げながらも、凛と咲く涙の花。
一言謝罪の言葉を呟き、碧の涙をそっと摘み取りました。
ミーアには話していませんが、勇者も、不思議な能力を持っています。
それは、時間を司る能力。
ミーアと同じく、ある代償との引き換えに、時間を止めることが出来る能力。
勇者の代償は、視力。
勇者は静かに目を閉じ息を止め、花に能力を送りました。
目を開けると、霞む世界。
視力を少し失った代わりに、碧の涙は萎れることも、枯れることもなく今の美しい状態を保てるようになったのです。
碧の涙の、時間を止めることによって。
霞む視界を目を凝らしながら歩き、ミーアの元へ。
寝ているミーアの髪に、そっと碧の涙を飾りました。
勇者がミーアのために造った、碧の涙の花飾り。
それはとても、とても良く似合っていました。
朽ちた城に咲く四季の花畑、そして朽ちた城に住まう碧い花の女の子。
これ以上綺麗な世界は、どこにもない。
視力を失っても、代わりに手に入れたものは、掛け替えのないものでした。
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