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 僕は朝からずっと、駅前のベンチに座っていた。  そこはちょっとした広場になっていて、中央の高台には大きな噴水があった。  噴水の前で、ストリートバンドが音のずれたポップスを歌っている。  その向こうの大通りには軒並み店が並んで、どこもかしこも、若い人たちであふれていた。  もちろん、広場も余波を受けてごみごみしている。埃っぽい。  僕は何をするでもなく、下手なポップスに傾聴したり、晴天の空を仰いだり、噴水の華麗な技に見入ったり、行き交う人を眺めたりしていた。  他にすることがないから、ベンチに建物の影が伸びてきてなお、僕はそこにいた。  何度か、意識が遠のいては、はっと戻ってくる感覚に襲われる。 「今日が最後の日?」  朝から初めて声をかけられたときも、僕は半ば意識を手放し、手で頭を辛うじて支えている状態だった。  その声はすぅっと耳に馴染み、僕の意識を呼び戻す。  見上げると、目鼻立ちのすっきりした薄化粧の女の子が、勝ち気に笑っていた。  滑らかな髪の一筋に銀のメッシュ、派手なロゴのTシャツ、裾がぼろぼろのハーフパンツ。  そしてスニーカー。  腕にはごろごろ重そうなブレスレット類をつけている。  元気が外に弾けている、という印象だ。  ごく普通のジーパンと無地のTシャツを着ている僕にしてみれば、ちょっと近寄りがたいタイプだった。  でも、彼女は僕の胸襟などお構いなしで、隣にさっさと腰を下ろす。軽快だ。 「朝もいたよね。ずっといるの?」 「うん」と僕は頷いた。  彼女はメイと名乗り、僕はヒロと名乗った。 「誰か待ってる?」  興味深げに聞いてくる。  僕は首を横に振った。 「することがないから、ここにいるんだ」 「もったいない。最後の日なんでしょ」  メイは親しげで、外見によらず話しやすかった。  敬遠したいという気持ちが、たちまち僕の中から払拭される。  そこで僕は、ふと尋ねた。 「最後の日って何?」
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