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メイは答えてくれなかった。
目を見開いて、いけないことを言ったときのように口を押さえただけだ。
そしてメイは、話題を変えた。
「どうしてヒロはここにいるの?」
「今日はお手伝いしなくてもいいから外に出てきなさい、って『お父さん』に家から追い出されたんだ。急に開放されると、何していいか分からなくてさ」
「……そう」
メイは足元に視線を落とした。
横顔に陰りが現れる。
が、それも一瞬のことだった。
すっくと立ち上がって、声を弾ませたからだ。
「暇なんだったらさ、ショッピングにつき合ってよ」
友だちに送るプレゼントが、なかなか決まらないらしい。
というわけで、午後三時頃、僕は朝からおつき合いしていたベンチをサヨナラしたのだった。
交通費くらいしかお金を持っていなかったから、僕はメイの後をただついて歩くだけだった。
メイもウィンドウショッピングばかりで、ほとんど何も買おうとしない。
あれでもないこれでもないと、僕たちはいろんなお店に入った。
雑貨ショップ、ブティック、靴屋、それから楽器店も覗いた。
ケーキ屋さんに入ったとき、メイは大好きだというシュークリームをガラス越しに物色した。
でも、迷いながら結局買わなかった。
僕が物を食べられないことを知っていて、そのことを途中で思い出したようで、気を遣ってくれたらしい。
気にしなくていいと言ったのに、メイは「一人で食べるなんて、やっぱり気分悪いよ」と、踵をひるがえして店を出た。
僕のせいだと思って謝ったら「何で謝るの?」と笑われた。
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