序章

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――――宇宙とは、幾重にも重ね合わされた“世界”の集合体だ。 世界、もしくは“空間”とでも呼べるだろう。 清らなる神々の天界、人間の生きる人間界、罪人の堕ちる地界、魔物の棲まう魔界。世界はこの四つに分けられる。 しかし、それぞれの世界の住人達は、自分達が存在する世界こそが唯一無二だと漠然と理解してしまっている。 その理由として、異世界の存在を知る者が各世界にごく僅かしかいないという事が挙げられる。 大昔、この四つの世界は一つだった。神も、人間も、霊も、魔物も、全ての者が同じ空間で生きていた。 しかし、力が圧倒的に弱い人間は魔物に奴隷のように使われ、糧にされた。 年月を経て、種族の違う者達は徐々に分かれていき、やがてそれぞれの領域を作って暮らすようになった。しかし、魔物は相変わらず人間を糧にし続けた。中には肉体のみならず、魂まで食らう者もいた。 神が唯一知力を与えた種族、人間を滅ぼすわけにはいかない。神々は人間を守る術として、それぞれの種族を空間ごとに分けて住まわせる事にした。 これが我々が今存在する“世界”の一つ、人間界である。 この事実を知る者が、世界においてほんの一握りしか存在しないのである。 昨今の現代社会において、魔法や、前述した神々の行いが真実であるという主張をしようものならば、周囲から白い目を向けられるのは請け合いである。このような主張は、ただの戯れ言としか見てもらえないのだ。 しかし、一方で“本能”という言葉が存在している。 神から与えられたのは“知性”。対して“本能”は、人間に古来より備わり続けている、野生動物の欠片。 知性を持った人間達は文明を築き、現代に伝わる社会形式を生み出した。 その影で、堕落と愚直、殺意が生まれた。 “知性”による協力と、“本能”による共食いを繰り返しながら、人間は生きてきた。 実は、この“本能”に、人間という生き物が辿ってきた歴史が刷り込まれている。この事実すら、一握りの人間しか知らないのだ。 魔物に糧にされ弄ばれた過去を、人間は持っている。 だから、一般的に人間は妖怪や魔物という類いの生物を恐れているのだ。 それはつまり、本能的に異世界へ干渉する事を恐れているという事なのかもしれない。 そのような人間目がけて、世界の歪みから魔物が現れては危害を加える。 だから“異次元”なんて言葉が存在するのは当然の摂理なのである。――――
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