序章

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「えー? どういう事ぉ?」 突然の声に、教室内は一瞬で空気が変わった。 無理もない。全員が今開いてる教科書には、歴史のような雑学のような、ひどく頭を悩ませる文章が書かれているのだから。 「もーホント、脳みそぐるぐるって感じ~」 「脳みそ絡まるわー」 「脳みそ千切り状態」 「むしろ脳みそみじん切り状態」 「お前ら、脳みそをどうしたいの?」 教壇に立つ教師は、騒つく教室に向かってそう突っ込んだ。 やや茶色い髪を一つに結わえて、縁なし眼鏡をかけた若い女教師。細身の体でスタイルは良さそうだが、勿体ない事にジャージにTシャツ姿。格好だけ見れば体育教師そのものだ。 名前は梅津貴美子。愛称は梅ちゃん。 「だってさ梅ちゃん、魔法使い目指すウチらがなんでこんな歴史っぽい事やんの?」 「仕方ないだろ、基礎知識なんだから教えないと仕事にならないんだよ」 「わー、教師という職業の本音聞いた。」 「いいから、お前らは黙って座って覚える」 ざっくばらんにも限度がある。この梅津という教師は、本当に女かと疑いたくなるほどぶっちゃける。 物事に執着しないといえばその通りだが、それ以前に彼女にぴったりな言葉は「大雑把」「テキトー」。 「入学した時に言っただろ? あたしの授業はテキトーだからテストで点が悪くても責任取りませんて」 「ソレ教師が一番やっちゃダメな事じゃない!?」 「給料貰えりゃいーんだよ」 「この最低教師!」 とんだ生臭教師である。教師どころか人間の風上にすら置けない。 「まーまー、良いじゃん皆」 しかし、こんな生臭教師にも“味方”はいる。 「授業中にお菓子食べても叱らない先生って珍しいよ?」 スナック菓子が入った袋を抱えて、満足げな笑みを浮かべている。 癖毛でくりくりに波打った明るい茶髪が印象的だが、髪以上にその大きな瞳もまた印象的である。 クラスきっての大食い少女、相原由奈。 「蓮ちゃんもそう思うでしょ?」 「まぁね。普通に寝てても怒らない先生ってのもアリだよね」 由奈に呼ばれた少女は、頬杖をつきながらそう答えた。 赤茶色の髪に、同色のツリ目。机の片隅には、キャンディが入った小さな箱。由奈が大食いなら、彼女は甘党といったところか。 名前は、木堂 蓮。 「梅ちゃんは教師の中でも有数のぶっ飛び先生だからねー」 梅津の目が輝いた。 「木堂、もっと言ってくれ!」 「嬉しいんかい!」
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