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ヒナが意識を取り戻すと、目の前にはうす青色の空、そこに流れる白い雲が広がっていた。
「ここは……」
顔を横に傾けると、緑色の草が風に揺れていた。どうやら、どこかに倒れている状態になっているようだ。
ヒナはゆっくりと体を起こす。延々続く草原。その先には地平線すら見えた。
日本には無いような光景に、しばらくぼうっとしていた。
「ヒナ、こっちだよ」
ふと、声がした方向を向くと、高校生くらいの男が立っていた
「あれ、タクたん?」
白いTシャツに紺のジーンズ、白いスニーカーと、高校生が着ていそうなシンプルな服装をしている。唯一目立つところと言えば、少し灰色がかった髪の毛だろか。
「へぇ、ヒナは普段そういう格好しているんだね」
「え?」
そう言われ、自分の服を見る。白いワンピースに白いハイヒール。確かに、普段出かけるときの格好に似ている。
「ここはキー・フィールド。キーホルダーにされた僕たちが、実体を持って話が出来る場所さ」
「キー・フィールド?」
「そう。実体、アバターといったほうが分かりやすいかな。アバターを形成しているのは、僕たちの意識なのさ。その意識っていうのは、それを操る入れ物、人間で言えば体かな。それによって形が変わっていくんだ。長い間入れ物に入っていた意識は、その形でほぼ固定されてしまう。だから、キー・フィールドで出てくるアバターと言うのは、人間のときの姿になるのさ」
タクは今の姿について一気に説明したが、ヒナはよく分かっていないようだ。
「えっと、つまり、キーホルダーになる前の姿になるってこと?」
「まあ、簡単に言えばそうだね。もっとも、少しイメージは補完されているだろうけど」
ヒナが自分の服を再度見ると、破れていたはずのスカート部分が無くなっていた。
「何しろやることがほとんど無いからね。だから、この場所で色々と遊んだり、暇つぶしをしたりするのさ。たとえば」
タクが片手をかざすと、突然ふっとトランプが出てきた。
「これで遊んだりね」
「え、今のどうやったの?」
「この空間は、僕のイメージで作られた空間なんだ。ヒナも、好きなものを思い浮かべてみなよ」
そういわれ、ヒナは今欲しいものを思い浮かべてみた。
「欲しいもの、欲しいもの……」
徐々に目の前に、何かが形づくられていく。
やがて、それがケーキであることがわかった。
「あ、できた!」
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