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平日の昼間の住宅街はほとんど人通りがなく、とても静かなものだ。
普通の社会人なら仕事へ、子供は学校へ、そして主婦は掃除や洗濯といった家事をせっせとしていることだろう。
先ほどまで晴れた空は、少しずつ曇っていく。太陽がさえぎられた後も、熱気にさらされた渇いたアスファルトは、ここぞとばかりに熱気を放ち、夏の暑い空気をさらに上昇させているように思える。
その熱いアスファルトの道路の上では、少年と少女、二人が対峙していた。
「今日こそ倒す!」
「まったく、いつもしつこいわね」
少年は、少女を指差して宣戦布告をするが、少女は両手を広げ、やれやれといった表情を見せるだけだ。
グレーのメッシュの入った青いショートヘア、そして白無地のTシャツに紺のデニム。この暑さだというのに、少女の体には汗一つ見えない。
対照的に、少年は額にびっしりと汗をかき、英文字が書かれたプリント地のTシャツは完全に体に密着していた。
少年は片足を引き、対戦の構えを見せる。それを受け、少女もしかたないといった表情で腕を突き出す。
白い雲は早く、色は徐々に灰色に、そして限りなく黒へ。その雲の流れに併せるかのように、風が徐々に強く吹き抜けていく。
二人が身に着けているショルダーバッグ、それにつけられた大量のキーホルダーが、その風になびかされてジャラジャラと音を立てる。
強く吹く風が徐々に収まっていく。ざわめく木々も、その戦闘の始まりを見届けるギャラリーのように、徐々にその音を潜め、戦闘開始に備える。
何かの合図を待つように、二人はまだ動く気配が無い。ぬるい風に奪われていたアスファルトの熱も、風が弱まると再び二人に襲い掛かってくる。
「いくぞ!」
風がぴたりと止んだ瞬間、少年は周囲の空気を切り裂くように、右腕を大きく左から右へ振り動かした。
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