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何色にも染まらない黒。
意識を取り戻したヒナが見た目の前の光景はそんな第一印象を受けた。
視界が定まらないまま、ゆっくりとあたりを見回す。薄暗くてはっきりとしないが、誰かの部屋のようだ。
『ここは……?』
独り言のように呟いてみる。その声は響かず、闇に吸収されるだけ。
窓が開けっ放しなのか、かすかに風が吹いてくる。と同時に、ヒナの視界もゆらゆらと揺れたような気がした。
『え、な、何!?』
思わず口に出す。そして体を動かそうとする。が、どうも動かない。
『おや、この声は……』
突然、どこからか声が聞こえてきた。あたりを見回すが、人影すら見当たらない。
『もしかして、君も僕と同じなの?』
声が聞こえる、というよりも、脳内に直接訴えてくる感じ。
『え、誰?』
きょろきょろとしながら、ヒナは見えない声の持ち主を探る。
『ここだよ、ここ。多分、君の目の前にぶら下がっているんじゃないかな』
ぶら下がっている?一体何のことだろう、と視界を左に移すと、そこにはたくさんのキーホルダーがぶら下がっているのが見えた。
『え、まさか……』
『そうだよ。男の子の形をしたキーホルダーがあるでしょ? それが僕だよ』
そうい言われ、男の子の形をしたキーホルダーを捜す。動物の形をしたキーホルダーが多い中、一つだけ、銀髪に黒い服を着た男の子のキーホルダーがあるのを見つけた。
『僕と同じって……』
『そう、君もキーホルダーになったんだ』
『へ?』
突然「キーホルダーになった」と言われて、信じられるはずが無い。ヒナは驚いて言葉が出なかった。
『声から察するに、多分あの女の子型のキーホルダーかな。君の近くに、女の子の形をしたキーホルダーはあるかい?』
そういわれ、ヒナは再びあたりを探す。が、人間型のキーホルダーは男の子のキーホルダーだけで、他には見当たらない。
『えっと、無い見たいだけど……』
『そうか。やっぱりね。あ、そうそう、僕の名前はタクヤ。タクでいいよ』
『タクたん? えっと、私は浅見比奈。ヒナって呼んでね』
『タクたん……。まあいいや。よろしくね、ヒナ』
突然自己紹介をされ、思わずヒナも自己紹介を仕返した。
『タクたん、キーホルダーになったら、どうなるの?』
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