キーホルダーの世界へ

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『特に何も無いよ。ただ、マスターの持ち物になってぶら下がっているだけ』 『え、それだけ?』  さっきから体を動かそうとするが、まったく動かない。ただ、時々吹く風で、ゆらゆら揺れるだけだった。 『そうだね。後はマスターのエネルギー源になるくらい』 『えっと、マスターって……』 『今お風呂に入っているところなんだけど、そろそろ戻ってくる頃かな』  と、タクが言いかけると、ちょうど部屋のドアが開いた。 「ふぅ、さっぱりした」  その声の持ち主は、部屋に入るとすぐさま部屋の電気をつけた。  暗い部屋が一気に明るくなり、薄暗くてはっきりしなかった部屋の概観がようやくはっきりした。 『あ、マスター、さっき新入りさんが入ったよ』  マスター、と呼ばれた部屋の主の男は、黒髪の頭をタオルで拭きながら、こちらを見る。 「ん、タク、新入りだって?」  タクの声に男が反応する。 『え、私たちの声って、他の人にも聞こえるの?』  それを見て驚くヒナ。確かに、キーホルダーの声が人の耳に届くとは普通思わないだろう。  と、その声を聞いて、男は突如ヒナのほうに向かっていった。  かと思えば、突然ヒナのキーホルダーを手に取る。『え、うわ、な、何!?』  ヒナは突如体が浮き上がり、じたばたしようとする。が、当然体は動かない。 「しゃべる……女体!?」  男はそういったかと思えば、いきなりキーホルダーから手を離し、机に向かった。そして、ノートパソコンを起動し始めた。 「そうか、ついに俺もしゃべる女体を手に入れたぞ……フフフ……」  パソコンの起動音が聞こえ、しばらくすると男はマウスを動かし始める。カチカチとクリックの音がしたかと思えば、ものすごいスピードでキーボードを叩き始めた。 「こいつは高く売れるぜ。キーホルダー収集暦十年、俺もとうとうレア物にめぐり合えたのだ!」  男はたまにクククと笑いを浮かべ、とどまるところを知らないマシンガンタッチタイプを放つ。 『……何あれ、変態?』 『いやいやヒナちゃん、確かに変態に見えるけど、変態は失礼だよ』  タクがなだめるが、ヒナは突然触られるわ女体言われるわで少しイライラしていた。
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