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私は確信した。N子にはあの招き猫が見えている。
別に私の目がおかしいわけではない。
周りをぐるりと見渡してみれば、教室の中心をチラチラと見る学生は、なんだ、けっこういるではないか。
ひょっとして皆は、巨大招き猫の存在を知っているのかもしれなかった。
知っていながら黙っている。
褒められたことではないし私も人のことは言えないが、可能性は大きい。
そんなことを考えていたとき、先生がタイミングよく言った。
「何か質問は?」
その途端、教室の中は静寂に包まれた。
学生は一斉に頭を下げて先生と視線が合うのを避ける。
視線が合えば、話を振られる確率が上がるのは分かりきった常識だ。
「あの……」
蛍光灯の瞬く音が聞こえる中、私はおずおずと手を挙げた。
一大決心である。
すると先生は、私の決心を知ってか知らずか、いつもの調子で私を差した。
「質問じゃないんですけど」
「ええ、どうぞ」
私は教室の中央に刺さっている招き猫を仰ぎながら発言した。
心臓が暴れて、頭が熱っぽくなる。私は緊張していた。
「見えます?」
「はい?」
先生はきょとんとした。
何か見えるんですか、と逆に尋ね返されているようで、私は不安になった。
発言に対する自信が急に萎えていく。
やめておけばよかったと後悔するが、もう遅い。
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