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本日は晴天なり。
肌を焼くことに必死になるマゾヒストたちは、今頃海水浴場にでもいることだろう。
室内に篭る僕たちは、そんな人たちの行動を愚かな物と貶す。
向こうすればきっと此方の方が愚かなのだろう。
今頃働いている人間からしても自堕落を振るう僕らは愚かでしかなく、マゾヒスト以上に社会の敵は多い。
そうと分かっていても、何かしようにもやる気と云うものは沸いてはくれない。
テーブルに突っ伏していた身体を起こす。
扇風機が独占されていたことに気付き、愚痴を吐きながら壁となる背中を叩いた。
振り向いたそいつ、水澤伊子の顔は不機嫌だ。
僕なんて暑さで緩みきった顔をしている。
固い表情を出来るのは何故だと疑問に思い、彼女の頬を触る。
露骨に嫌な顔をされたことはさておき、ひんやりとして気持ちが良い。
「男なら暑さくらい我慢しろよ」
「性別は関係ないだろうが。女だって暑さに耐えて頑張っている」
だからお前も暑さに耐えてみろと言い、彼女の座るパイプ椅子を引こうと手を伸ばす。
直ぐさまに飛んできた手によりそれは阻止された。
「知らないのか?女性は暑さを我慢できない。今頃外に出ているやつは実を言えば男。ついているんだ」
「そんな訳無いだろうが」
否定した僕に向かい、水澤は指を振るう。
そして自信ありげに言う。
「そんな訳なんだ、実際は。」
嘘をつく姿は堂々としている。
強く言うものだから思わず信じてしまいそうになり、現に背後からそうなんだと声が聞こえてくる。
「いやそんな事はどうでもよくてさ」
いいからそこをどいてくれと頭を下げる。
しょうがないと言う彼女だが、しかしそこを退こうとはしない。
椅子を勢いよく引こうとする手前、扇風機の首が振れるようにとだけはしてくれた。
話は続けられる。
「あとは、そうだな。女子高に勤めてる奴には付いていない」
「なら何。男子校に行く人はついてるのか?」
「いや。間違いが起こらないようにと生徒も含め皆ついてない」
「女子高じゃないか」
それで話に満足が付いたのだろうか、水澤は満足げに良しと頷いた。
そして今まで放置していたこの部屋の主を指し、彼に話を振る。
「それじゃあ部長、話も終わったことだ。呼んだ理由を言ってもらおう」
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