一夏戦争

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長谷部の言葉に対し首を振る者はいなかった。 ただ頷いたかといえばそうではない。 三人が三人、皆揃えて首を傾げていた。 まず始めに、宮古は何をやるのかとその内容を尋ねた。 これに対し長谷部は、これから皆で決めようと思っていたといつもながらしどろもどろに答える。 ただやりたいと思って提案した。 たったそれだけのことでも彼の成長を感じざるを得ない。 まるで親のような考えだ。 いったい僕は、どれだけの部員と家族になりたいというのか。 「それで長谷部、何でこの時期なんだ?文科系の部活なら活動していても問題ないだろ。それなのにやるのには何か理由があるのか?」 運動部が夏に引退する理由は、概ね受験勉強をする為にあるだろう。 夏期休業中に出る山のような課題は、家でもやってはいるがここでやっている印象のほうが強い。 勉強出来るこの部活を止める理由は無いのではないか。 そんな風に考えているところ、僕はこの部活を好いているのかもしれない。 卒業制作と言って部活を終いにしようとする長谷部に対し、だから僕は聞かざるを得なかったのだろう。 長谷部は言葉を選ぶように考えた後、口を開く。 「えっと、ね。先生が、言ったんだ。活動が曖昧なら、部屋を使わせられないって。だからね。活動するって、そう言っちゃったんだ。勝手に決めてごめんね?」 責めることは何も無く、部活を続けようと考えてくれたことに感謝さえ覚える。 名字だけで決めた部長という役職、それらしいことを始めて行った彼が偉大に見える。 「卒業制作と言ったけどさ、それをやりさえすれば卒業まで部室を使い続けていいのか?」 「活動を見せれば良いって、言ってたよ」 安堵の息を漏らす。 そして次はお前の番だと、そう思い水澤を指さす。 首を傾げている彼女はきょとんと更に首を傾げ、そしてああと納得したように頷いた。 「私に話を振るな。首が痒かったんだよ」  そう恥ずかしそうに言ったのだった。
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