クロスロード第一章~人生のスクランブル交差点~

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1.不動産営業 「高井 清」 それなりにやっている。 不満がないと言えば嘘になるが、「完璧な幸せ」なんて言える夫婦なんて居ないだろうし、「うちは完璧!」なんて人がいたら、「パートナーもそう思っていたらいいですね」と言ってあげたい。 裕福とは言えないが、人並みの生活は出来ているし、子供はいないが、妻と二人、それなりにうまくやっているはずだ。 仕事もそうだ。 不動産屋の営業マンとして、バリバリとは言わないが、それなりの成績で、それなりに評価も受けている。 幸せでありたいとは思うが、今以上、これ以上と望めば、無理があるし、逆にストレスにもなるだろう。 向上心と欲望をはき違えれば、幸せどころか、何もかも失うことになるというのもよくある話だろ? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「じゃあ、行ってくるよ!」 いつもの朝の風景。 「ちょっとアナタ!ゴミ出して行ってっていったでしょ?ちゃんと持って行ってよ!」 「わかったって!でかい声出すなよ!じゃあいってくる!」 と言ってドアを閉める。 俺の名前は、「高井 清」。 「たかい きよし」と読む。 こんなやり取りは毎日のこと。 最初のうちは「ありがとう」という言葉と、気持ちを発していたが、それが当たり前になると「やってくれないと不満」を口にするようになる。 口にしなくとも態度にあらわれる。 それを指摘しようものなら、「あなただって~」「あなたが~だから」という言葉しか返ってこない。 論破したところで何も変わりはしないし、愛情たっぷりで育てられた彼女に理解するのは不可能だろう。 ちょっとムッとしたが、それを抑え、玄関を離れる。 俺は、一呼吸置いてから、駅までの道を歩き出す。 何のために一生懸命になるのか? それは考えないようにしている。 きっと答えは見つからないし、たぶん意味なんてないと思うから。 乗り換えは2回。 会社からは遠いが、マイホームの夢のためには郊外に住むしかなかった。 これだって、皆、同じだろう? 駅から会社までも徒歩15分ほど。 遠いというほどではないが、朝の15分は大きい。 レンタル自転車で、会社に向かう。 朝から疲れちゃいられないしな。 始業の20分前に会社に着く。 これも毎日のこと。
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