21人が本棚に入れています
本棚に追加
1.不動産営業 「高井 清」
それなりにやっている。
不満がないと言えば嘘になるが、「完璧な幸せ」なんて言える夫婦なんて居ないだろうし、「うちは完璧!」なんて人がいたら、「パートナーもそう思っていたらいいですね」と言ってあげたい。
裕福とは言えないが、人並みの生活は出来ているし、子供はいないが、妻と二人、それなりにうまくやっているはずだ。
仕事もそうだ。
不動産屋の営業マンとして、バリバリとは言わないが、それなりの成績で、それなりに評価も受けている。
幸せでありたいとは思うが、今以上、これ以上と望めば、無理があるし、逆にストレスにもなるだろう。
向上心と欲望をはき違えれば、幸せどころか、何もかも失うことになるというのもよくある話だろ?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「じゃあ、行ってくるよ!」
いつもの朝の風景。
「ちょっとアナタ!ゴミ出して行ってっていったでしょ?ちゃんと持って行ってよ!」
「わかったって!でかい声出すなよ!じゃあいってくる!」
と言ってドアを閉める。
俺の名前は、「高井 清」。
「たかい きよし」と読む。
こんなやり取りは毎日のこと。
最初のうちは「ありがとう」という言葉と、気持ちを発していたが、それが当たり前になると「やってくれないと不満」を口にするようになる。
口にしなくとも態度にあらわれる。
それを指摘しようものなら、「あなただって~」「あなたが~だから」という言葉しか返ってこない。
論破したところで何も変わりはしないし、愛情たっぷりで育てられた彼女に理解するのは不可能だろう。
ちょっとムッとしたが、それを抑え、玄関を離れる。
俺は、一呼吸置いてから、駅までの道を歩き出す。
何のために一生懸命になるのか?
それは考えないようにしている。
きっと答えは見つからないし、たぶん意味なんてないと思うから。
乗り換えは2回。
会社からは遠いが、マイホームの夢のためには郊外に住むしかなかった。
これだって、皆、同じだろう?
駅から会社までも徒歩15分ほど。
遠いというほどではないが、朝の15分は大きい。
レンタル自転車で、会社に向かう。
朝から疲れちゃいられないしな。
始業の20分前に会社に着く。
これも毎日のこと。
最初のコメントを投稿しよう!