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そして着くや否や大きな声で挨拶が飛んでくる。
「高井さん!おはようございます!あれ?なんだか眠そうですよ?寝不足ですか?」
と、いつものように冷やかし気味に声をかけて来るのは同僚の下村。
下村は、俺より年は下だがなんとなく気があって軽口をたたきあう仲である。
「俺の頭はここ最近でも一番冴えわたってるぜ?お前こそ目開いてないんじゃないか?」
と、これまた中身のない軽い感じで返す。
まあ、他の同僚たちも似たような感じかな?
毎日、結構賑やかに過ごしている。
俺は会社に居る時間は嫌いじゃない。
仕事が好きというよりは、一日のほとんどを過ごす、「職場」という環境を楽しむ気でやっていたし、それが出来る環境でもあるからだ。
もちろん、嫌な客や上司もいたが、そんなことは当たり前だとわからない年でもない。
そして、この年になると、こんな毎日が凄く早く過ぎていくように感じる。
もうすぐ定年だなんて話していた、皆が慕うベテラン社員の坂本さんも言ってる間に定年を迎えた。
契約社員として残るもんだと皆思っていたが、坂本さんは何の未練もなくあっさり退職を皆に告げた。
「人生いろいろ。お前らもまだまだ先だなんて思ってないで、理想通りのラストを迎えられるように今から準備しとけよ!」
なんてね。
悲しむ暇も与えないのは坂本さんらしい気遣いだと思う。
何十年も勤めてきて、その最後に感慨の一つもないはずはないが、晴れやかに去って行ったのは、本当に坂本さんらしい去り方だ。
そして、個人的にもらった言葉は「一生懸命にやっていれば必ず誰かが見てくれている。これは間違いない。あ、俺、今いい事言ったぞ!メモしとけ高井!」
だった・・・。
だが、こんな言葉も勤めあげた男だからこそ・・・重みがある。
俺は今まで以上に仕事に取り組んだ。
坂本さんの代わりにってわけではないが。
とりあえずは順調にやっていた。
そう。
その日が来るまでは・・・
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