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「お困りの様じゃな」
「え……?」
凛とした声に、我を取り戻す。良く見ると、俺を襲う炎はその勢いを弱めており、気が付けば誰かに抱き抱えられていた。結われた二本の髪が、風になびく。
「ふ~……。何だか良く分かんないけど、助かったみたいね」
「タツキちゃん……、良かった……!」
アイリがリザから距離を取ると、すぐさまリリサが俺の傍まで駆け寄る。拘束されていた両足首に切り傷の様な痕があったが、リリサがそこに両手をかざすと、瞬く間に傷が癒えていく。
「あ、ありがとうございます。――私、まだ、生きて……」
「うんっ。もう平気だよ。あの獣人がリザの魔法の威力を……見た事も無い魔法で弱めてくれたんだ」
アイリが俺に笑顔を向けながら、説明を加えてくれる。次いで後ろの方へ体の向きを変えると、その先には――
「……え? あれって、もしかして」
「ご主人様?」
「タツキちゃん?」
扇情的なイメージを見る者に与える、真っ赤な着物。金の刺繍であしらわれた九つの尾が特徴的な、美しい狐の模様。
「間一髪じゃったな、童。ふふふ……っ」
白い髪が腰の辺りまで伸びていて、頭頂部には犬に似た動物の耳。真っ赤な瞳、アイリと同世代にも見える背格好。
そんな出で立ちの少女が、俺を見ていた。
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