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--王都アルカディア--
街に凛とした光がそそぎ、人々が目覚め出す朝。
城と思われる場所も朝日に照らされ輝き出す。
長い廊下の幾つもの窓から、その煌めきはまだ有る黒い闇を追いかけて行った。
その一角だけ声に包まれる場所が在った。
「まだか! まだ産まれんのか?」
渋い声が廊下にこだまする。
廊下にはガイゼルの髭で金髪の男が立っていた。
その男の服には華麗な装飾が施されており、一目で高貴な人物と判る。
「カトリーヌ様が頑張って御られます! もう少しで御座います」
男が部屋に入って行こうとするのを傍に居る家来が制す。
家来と思われる者は下半身だけが具足に包まれており、先程から男を冷静に止めていた。
反対に髭の多い男は目が血走っており、落ち着き無く家来から離れ様と暴れている。
「離せ、離さぬか!」
男が声を荒げる度、家来の数は増えた。
男達の行動で腰の剣と具足で激しい合唱が始まる。
目を背きたくなる様な醜くやり取りと煩い雑音が辺りに響いた。
もしそばに子供が居たら間違い無く泣き叫んでいる。
その醜いやり取りはかれこれ一晩、廊下で行われている。
この事は男達に浮かぶ疲労の表情から見て分かる。
筋肉質の体格の良い男達は皆、目の下に黒いもの作っていた。
その時、勢いよく部屋の扉が開けられた。
今まで掴み合っていた男達は一斉に静止する。
開け放たれた部屋からは1人の女が出てくる。
女は医者の身なりで、服が汚れているにも関わらず目を輝かせている。
女は髭の男の前に片膝を付くと目の高さ程で片方の手の平に拳を打った。
早速、髭の男が目で合図する。
それに答えて女は声を震わせながら報告した。
「国王陛下。御生まれになりました! 男の子で御座います!」
報告を終えたその直後、赤子の鳴き声が辺りに響く。
周りの者達はその声に安堵の表情を浮かべ、歓喜した。
『王国の奇跡』後にそう伝えられる一人の伝説が産まれた瞬間である。
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