恋人

19/46
前へ
/48ページ
次へ
「江戸川か」 そんなここから逃げ出したくなってきた俺を尻目に、ゴウは何かを思い出したようにうっすらと笑った。 あ、俺とゴウの思い出で、江戸川と言えば。 付き合い始めの頃、ゴウと一緒に区の中央にある江戸川保健所へ行ったことがあった。 なんでそこに行ったかと言うと、結果がすぐわかるHIVの即日検査をやっていたからだ。 元々、相当なイケイケドンドンだったゴウは、俺と付き合う前くらいまで遊び癖が抜けていなかった。 そのせいか、付き合うことになったのに何もさせてくれず、「気になるから保健所行ってから」と言われて、俺は不満たらたらだった気がする。 「自分が男とやりまくってたからって」 平日の昼間の電車の座席はガラガラで、他の車両もほとんど人が乗っていなかった。 19の俺は、ゴウの隣りで脚を組んで頬杖をついたまま、一人でそっぽを向いてむくれていた。
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1363人が本棚に入れています
本棚に追加