名無し荘

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 今日はバイトがなかったので大人しく健全にアパートへ戻りました。すると、急に10号室のドアが開き、倉敷さんが飛び出してきて言いました。 「お帰りりーさん! ずっと心待ちにしていました! さあああ! 私のチョコを受け取ってください!!」  なんという形相でしょう。見る見る内に顔が赤くなっていくではありませんか! とまあ某テレビ番組のナレーション風つっこみは置いといて。 「ありがとう倉敷さん! 僕は君からチョコを貰えて世界一幸せな男だよ!」  と返すようなことはせず「ありがとう。大切に食べるね」と頭を撫でながらお礼を言った。 「はぅ……きょ、恐縮でつっ……えへへ」  噛んだ舌がとても痛そうで、大丈夫かなと心配になったけれど、満面の笑顔でいたので安心だ…………ん? よく見ると血が出ている。どうやら大丈夫じゃなかったようだ。 「とりあえず僕の部屋においで」 「え……?」 「早く」  有無を言わさない雰囲気で僕は、倉敷さんを荷物が半分解かれていない部屋へお招きし、救急セットから口内炎用の薬を取り出した。 「口内炎用の薬は舌の傷にもけっこう効くんだ。はい、口を開けて」 「え!? ……でも……」
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