名無し荘

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 教室では甘い匂いが充満していた。誰かが早速チョコを食べているのだろう。甘ったるい匂いが苦しい、とのたまう人はいるけれど、今日はしょうがないと観念していました。一喜一憂の波の中、僕が席に着くとグループで話していた一人の女子が近寄ってきた。 「りっくん」 「はい」 「これあげる」  ここにも可愛らしい箱が。 「ありがたく貰うよ、八重樫さん。お返しはキスでいいかな?」 「……今日も元気だね。お返しはいらないよ。なんかりっくんにあげたくなっただけだから」  こう返すとお返しがいらなくなるという、魔法のパターンだったりする……はず。八重樫さんみたいなさばさばしてる女子にしか通用しないだろうけれどね。 「りっくんおはよう。いやー、今日もいい天気だねぃ」 「おはよう、堀江さん。会話がないときの常套文句を言いながら君はなんで恨めしそうな顔をしているんだい?」  堀江さんはイケメングループの長だ。みんな格好良いと言っているんだけれど、なぜかモテないらしい。 「りっくん、チョコいくつもらったのかな?」 「えっと、いくつだろう……」  僕は鞄の中を確かめてみる。一つ、二つ、三つ…………。 「さっきの八重樫さんのを含めて丁度10個だね。あ、でもこれは義理だからさ」 「…………そうなんだー…………」  堀江さんはそう言い残し少し俯き何か考えながら去っていった。
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