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この学校に戻った日、田井中さんと会った時の事は、今でも覚えている。
か細く震えた声、光を失ってしまった瞳、初めて会う少女はあまりに儚く見えた。
「彩千はな、いつだって軽音部を助けてくれたんだぞっ。」
「…そんな彩千を見たら…、また、助けてくれるんじゃないかって…、そう、思ったんだ。」
あの時田井中さんが言った、願い。
『澪を…たすけて。』
「私は彩千を信じて良かったと思ってる、この先どんな事が起こっても、この気持ちは変わらないからな。」
田井中さんの真っ直ぐな言葉は、少し恥ずかしくもあり、それ以上にうれしい一言だった。
「りっちゃ~ん、電車きちゃうよ。」
先に駅の改札口に着いていた平沢さんが、大きく手を振っていた。
「すぐ行く、っと、それと彩千、一々(さん)付けなくても良いからな。」
「…田井中」
「律でいいよ。」
ニッ、と無邪気な笑顔…
何時かに見た取り繕う様な笑顔とは違い、夏の日差しと蝉時雨の中に咲く向日葵のような、律らしい自然な笑顔だった。
「…り、律、また明日。」
また明日、っと一言言い残して律は、駅え駆けていった。
そして入れ替わりで澪が走って来る。
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