エピローグ

14/15
前へ
/15ページ
次へ
この学校に戻った日、田井中さんと会った時の事は、今でも覚えている。 か細く震えた声、光を失ってしまった瞳、初めて会う少女はあまりに儚く見えた。 「彩千はな、いつだって軽音部を助けてくれたんだぞっ。」 「…そんな彩千を見たら…、また、助けてくれるんじゃないかって…、そう、思ったんだ。」 あの時田井中さんが言った、願い。 『澪を…たすけて。』 「私は彩千を信じて良かったと思ってる、この先どんな事が起こっても、この気持ちは変わらないからな。」 田井中さんの真っ直ぐな言葉は、少し恥ずかしくもあり、それ以上にうれしい一言だった。 「りっちゃ~ん、電車きちゃうよ。」 先に駅の改札口に着いていた平沢さんが、大きく手を振っていた。 「すぐ行く、っと、それと彩千、一々(さん)付けなくても良いからな。」 「…田井中」 「律でいいよ。」 ニッ、と無邪気な笑顔… 何時かに見た取り繕う様な笑顔とは違い、夏の日差しと蝉時雨の中に咲く向日葵のような、律らしい自然な笑顔だった。 「…り、律、また明日。」 また明日、っと一言言い残して律は、駅え駆けていった。 そして入れ替わりで澪が走って来る。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加