1人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
…
……
「お久しぶりです、彩千先輩、澪先輩…。」
重い沈黙を破ったのは中野だった。
表情を変える事はなく、氷刃の様な冷たい言葉での挨拶。
やはり敵意は消えていなかった、
澪が退院したあの日…
澪が軽音部を拒絶したあの日から…
中野は笑わなくなった。
「それじゃあ、お疲れさまです。」
中野は、立てかけてあったギターケースを背負い部室を出て行ってしまった。
そして、また訪れる重い沈黙。
すると、険悪な空気を察した箏吹さんが優しく話しかけながら歩み寄る。
「久しぶりだね、澪ちゃん!。」
が、澪は俺の背中に隠れてしまう。
「こん…にちは…」
風でかき消されそうな微かな声ではあるが、澪はあいさつをした。
「ごめんねっ、驚かせちゃったよねっ、今ケーキとお茶のする準備するからゆっくりしていってね。」
箏吹さんは笑顔を絶やすことなく澪に優しく話しかけてくれる、澪も少し緊張が解けたのか背中から出てきた、勇耶の袖を掴んだまま。
これ以上自分が軽音部に居たところで、場の空気が悪くなるだけなので去ることにした。
「じゃあ澪、俺はもう委員会行ってくる、一時間くらいで終わるから、…田井中さんよろしくお願いします。」
澪の顔にはまだ不安の色に満ちてはいるが、弱々しく頷き、俺の裾を掴んでいた手をゆっくりと離す。
「鯛焼き…」
「あぁ、帰りにな。」
澪の頭を一撫でして部室を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!