保健室のキス。

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◇ 「具合良くなった?」 あたしの顔を覗き込んでそう言うのはヤマ兄。 あたしが寝る前に、部屋に来てくれた。 ベッドを背もたれにして軽い世間話。あたしの体調を朝と変わらず心配してくれた。 うまく笑えないのをごまかしたくて、少し頭痛がすると言ってしまった。 あたしのおでこに手を当てて、自分のおでこの熱と比べる。 「熱はなさそうだけど」 またおでこに触れる。ヤマ兄の手は、大丈夫。恐くない。 そんなことで安心してしまう。 「く…薬飲んだから大丈夫」 「ならいいけど。早く寝るか?」 「……うん」 そっと立ち上がるから、ベランダまで見送る。 置いてあったサンダルに足を入れると、振り返ってあたしに軽いキスをした。 「おやすみ」 「うん、おやすみ」 引き戸とカーテンを閉めた。部屋の電気を消して、真っ暗にする。 隣の部屋からカタッと音がした。 ヤマ兄はまだ起きてるんだろうな。 そう思いながら、キョウの出来事を口に出して言えないことが辛かった。 だけど。 言ったら。 キョウがヤマ兄とあたしが付き合ってることを知ったら。 ヤマ兄があたしとキョウがキスしたことや、キョウの気持ちを知ったら。 兄妹でいられるのかな。 家族でいられるのかな。 ズキズキするのは、胸の内側と外側。 どうしようもないことを朝がくるまで何度も考えていた。
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