哀しい笑み。

3/20
前へ
/522ページ
次へ
遡ること数日前。 あたしがヨリ様のサインをサヤコに見せようとやや興奮しながら、手帳を広げて見せたら。 紙のようなものがヒラリと床に落ちて。 「………なにこれ?」と、サヤコが拾った。 書いている文字を読み上げ終えると、落としたものは、もらった名刺だと気付く。 「本物?」とあたしの顔を見た。 「た………たぶん」 「どうしたのこれ?」 「えっと、タカ兄の……」と、事の始終をかいつまんで話すと、なぜか、目がキラキラと輝きだした。 「ちょっと、アサカ。なんでそんないい話、あたしに言ってくれないわけ?」 「へっ?」 「是非、連絡を取ってよ!お願い!見学だけでもいいから、あたしを連れてって」と、手をあわせてお願いしてきた。 「見学?」 そんなことまで頼めるのかな?遊びに来ていいよみたいに、軽く言っていたけど。 と、そこで、サヤコの夢を思い出した。確か、雑誌の編集の仕事がしたいって言ってた。しかもイケメン特集がどうのこうのとか。 なら、見学したいとか思うのも当然かもしれない。 あたしがそう思い直していると、 「あ。アサカ。そういえば、あんまり男の人が得意じゃなかったんだっけ? だったら、そんなところ行きたくないよね? そうだよね?ごめん。あたし気が利かなかった」 忘れて、と急に申し訳なさそうに謝ってくるから、「いいよ。訊いてみるね」と、つい言ってしまったのだ。
/522ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2969人が本棚に入れています
本棚に追加