哀しい笑み。

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「あの人も、モデルなのかな?」と、サヤコが言った。 視線を追うと、隣のスタジオの入り口前に胸元があいたAラインのシフォンドレスを来た女子が、 「お疲れ様です」と、すれ違う人に会釈をしている。 前髪で顔はよく見えない。今、撮影が終わったところなのかな。 「いかにも、キャバ嬢って感じだよね」 と、サヤコは小声で言った。 昼に会ったら、浮いてしまいそうな存在感。それだけで、夜の人だって、あたしだってわかる。 お店の看板とかに飾る写真の撮影かな?そういえばそういう専門の雑誌もあったっけ。 少しうろうろしてから、「ちょっとトイレ」とサヤコが言うから、入り口で待っていると。 「お前ら、うろちょろすんな」って、タカ兄がイラッとした顔で近づいてきた。 「ご……ご機嫌麗しゅくないのう」 「オラウーがここにいるだけで、ぞっとするんだよ」 と、まるであたしが生霊みたいな言い草だ。ひどい。 ちょっと、ひどい言葉を言って返そうと思ったときだった。 「タカイチ」って呼ぶ声がして、ドキッとした。
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