虚水(うつろみず)

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 そこには、人間が立っていた。その姿形はどう見ても人間のそれだ。わたしははっきりとそれを認めた。  機械によって拡大された眼前に、確かに人間が存在していた。…あの場所には人がいる。  ボロ布で出来た下半身のみの装束衣装。頭髪はボサボサで彼方此方に伸びきった「ざんばら髪」。  顔つきは…中年から初老といったところの、皺が目立つ年相応のもの。鼻の先が下に長く突き出ている。  顎も長く、顔自体もひょろ長い。目つきはよく見えないが、少なくとも表情に険しさは無い様に思えた。  上半身の形から、紛れも無い男であるという事だけはわかる。…ああ、顔が良く見えた。  鳩胸、猫背、たれ目。個人的に大好きな被写体だ。
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