虚水(うつろみず)

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 その男は、自らが折った数本の幹を小脇に抱え、岬の中心部に開いた穴の奥へと消えていった。  わたしは我に返り、男が足場としていた大木の周囲に眼を向けた。  人間の動きに気を取られていて気付かなかったが、そこには縦横4m程の洞穴__  洞穴と言うのかはわからないが、ともかく人が5人程は入れそうな穴が開いていた。  よくよく見ると、とても不思議な造形をしている。一体どうやったら、あんな確かなスペースが  都合良く形成されるのだろう。人の手が入ったとは到底思えない。  それとも昔、あの場所で何か催し物があったのだろうか。  大木の真下にレンズを向ける。やはり根の部分は運河の底に埋まっている。  あの1本の大木の根元の土はどうなっているのか…ふと気になったが、  あの男の存在がそれを上回る勢いで頭の中を駆け巡っている。  あの男の色んな事柄が、急速にわたしの頭の中で浮かび上がってくる。
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