虚水(うつろみず)

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 時折わたしは思い浮かべる。知恵とは何をもって知恵と言うのか、技術とは何をして技術であるのか。  今の時代の流れの中で、そのルーツとなるものが如何様に変化しつつあるのか。今もまた同じ事を考えている。  この橋が完成するまでに、どれだけの人間が…どれ程の知識と技術をもってして…どんな事を考えていたのか。  一人の人間の限界はたかが知れている。だからこそ、限界は数で補える。  それは原始の頃から生命に備えられてきた、大いなる本能的構造の一つだ。  種が栄える事は、大まかに言うと数を増やす事であると言える。繁栄というものは決して個と結びつく事は無い。  繁栄は文化を生み、社会を創り出す。文化の発展もまた、新たな閃きの可能性がより多い故の事であり…  社会の対立もまた、同じ様に相容れぬ思想から来るものだ。相容れぬ故に、闘争本能故に、生き物は対立し、争う。  主義が人を侵食し、社会を構築し、その概念が国家をも包み込み、国同士がぶつかり合い、そしていつしか、人々は__  パシャリ。パシャリ。多種多様な構図、角度、明度、倍率。  見上げた橋を十数枚カメラに収めたところで、一先ずはその場を後にして砂利道の角へ向かった。  後でこの写真を見た時、わたしは改めて何かを感じるのだろうか。その期待は今尚、わたしをわたし足らしめるものか。
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