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ふいに目頭が熱くなって、片腕で顔を隠す。
誰かに見られてる訳でもないのに……。
会いたかったんだ。私は。
今さら気がついたって遅いけどね。
気がついてたら、もう少し素直になれた?
そんなこと考えたってもう後の祭りだけど。
あんなことして会わせる顔なんてない。
大丈夫だよ。
会う確率のほうがはるかに低いし。
会ってどうにかなる間柄でもない。
ピアノの伴奏は学校が始まるまでの約束。
それまで大人しく過ごしていればいい。
紫陽花畑に足を踏み入れなければいい。
簡単だよ。
一筋、熱いものが流れた気がした。
また汗が流れたと決めつけて、顔を隠した手でグイッと拭った。
外では儚いセミの泣き声がいつまでも響いていた――。
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