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「……あれっ?」
横上 雛(よこうえひな)は、引越し準備の為に、片付け出した勉強机の引き出しを開けて、素っ頓狂な声を出した。
それと同時に、もろくなった壁が、部屋に侵入してくるすきま風を許して、唸りをあげる。
外の風はとても強かった。
あと一週間もすれば、四年を共にしたこのオンボロアパートとおさらばだ。
と、同時に、学び舎として通いつめた大学ともさよならするという意味も含まれている。
あてがわれていた研究室は、もう人が居た形跡すら無い。
あれほど積み重なっていた研究レポートやら資料やらが無くなって、その重みに耐えた机が見えた瞬間の喜びといったら。
もともと、掃除をするのは、嫌いじゃない。
「こんなノートあったかな」
すごく色褪せた大学ノート。
すごく、というのも、それ以外に修飾できる言葉がみつからない。
強いていえば、すごく、年代物。
表紙には特別なんにも書かれていなかったけれど、ひとつだけ読み取れたのは『ライオン』という文字だけだった。
その前後になにか書いてあるわけでもなく、ただ、表紙の端っこに、たった一言。
「ライオン……」
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